表題作「NON Tea Room」から始まるケンタと連次の物語と、後半には前作
『Nobody Knows』のススムとモドルのその後の物語が収録されている。
奇しくも、どちらの話も「身代わり」いうコンセプトが浮かび上がってくる。代わりでいいから彼の居場所になりたい、自分がいなくなっても代わりの相手に託したい…。
派手な演出もなく特別なエピソードもない。さらっと読めてしまうので一読では気づきにくいけれど、何度か読み込むうちに、淡々としたやり取りのなかに実は深い意味をもった言葉があったり、言葉よりも雄弁な表情が物語るその視線や仕草の意味に気づいたりする。読むほどに味わいのある作風だ。
アマチュアバンドでベースを弾いているケンタは、違うバンドでギターを弾いている連次と知り合う。好きなバンドが同じでスケボーが趣味で、同い年。それ以外は趣味も性格も全然違ったけれど、二人はごく自然に親しくなる。
親元を離れて専門学校に通っているケンタは具体的な将来設計もなく、音楽でプロになりたいと思っているわけでもない。そんなケンタには、アーサー(浅田)のバンドに惚れこんで強引にメンバーに入れてもらったから、技術的に足りないぶん人一倍努力してギターの腕を磨いていると言う連次の姿はまぶしいものだった。
ケンタは人なつっこく無邪気で明るい連次に惹かれていくが、連次がアーサーに気があるということを察している。それでもいいと連次と身体を重ねたけれど、やはりアーサーの代わりであるという思いに耐えられなくなっていく。
決定的だったのは、アーサーの連次に対する態度だ。ただのバンドメンバーというだけにしては親密で保護者めいた言葉を口にするアーサーに、本当は連次の気持ちを知っていて自分を紹介したのではないか、だったら今さら気があるようなそぶりはやめて欲しいとケンタはなじる。連次がかわいそうだから、と言い訳じみて口にした言葉を、アーサーはまぜ返す。「お前がかわいそうになるからって聞こえるよ」
ケンタはアーサーから意外な事実を聞かされる。去年までアーサーと連次がつきあっていたこと。連次はアーサーの前の恋人とそっくりだったこと。その恋人は死んでしまったこと…。
誰かの代わりでもいいと思った。それでも、このまま一緒にいればいつか連次は本当にケンタのことを好きになってくれるかもしれない。事実、初めてエッチしてからケンタの気持ちは連次に傾いていっていた。このまま自然に二人は両想いになれるはずだった。けれど、アーサーからの寝耳に水の過去の話だ。
連次にとってアーサーはただ片想いしてただけの相手じゃなかった。アーサーは恋人だった。連次はアーサーにとって前の恋人の身代わりだった。幻影にしがみついているわけにもいかないと、アーサーは連次の手を放した。けれど手放さなければよかったかもしれないなんて、アーサーが言うので。
ケンタはいっぱいいっぱいになってしまった。まだ恋も愛もしたことがなかったケンタ。初めて知ったキレイゴトばかりじゃない生々しい感情。誰も悪くないのだとしても、意図せず誰かを傷つけてしまう。恋や愛が楽しくてきれいなことばかりじゃないことを知ってしまって、繊細な感じやすい心をもった彼は混乱してしまった。そして一時的に、連次を拒絶してしまう。この、扉越しにケンタに呼びかける連次の姿がせつない。
結局、連次は自らアーサーとの間にあるものに決着をつける。それまで、夢に対しては情熱的で前向きな姿を見せていた連次だけれど、こんなに真剣な表情をするんだと思った。嘘のつけないまっすぐな彼は、物事の本質を見抜く目を持っているんだな、そう思った。
初めてセックスした後、どこかよそよそしくなったケンタの態度に、ケンタに対して不都合なことは誰にも言ってないからね、と言う。それともやってみたら気持ち悪かった?なんて、それはとてもかなしい気遣いだ。自分の存在が誰かの不利益になることを想定している。過去に何かあったのかもしれないけれど、それは語られていない。ケンタに対して言ったのと同様に、アーサーとのことも誰にも口外していない連次。アーサーのことが好きだったこと、つきあっていたこと、実はケンタにさえ自分から告げてはいないのだ。
まっすぐで嘘がなく、相手のことを思いやれる余裕と強さ。連次のそんな強さに、アーサーとケンタはきっと惹かれたんだろう。
ところで、「NON Tea Room」というタイトルの意味がちょっとわからない。
”Tea Room”には俗語で男子用の公衆トイレという意味があるらしい。つまり、ゲイのハッテン場のことだ。それの否定形……?
最後のシーンで、「一回トイレでいちゃいちゃしてみたかった」っていうのは、関係ないと思うけど……。ダメだ、何も思いつかないなあ。
それから、ススムとモドルのその後が描かれた「Wipe it」。
前作で頭部を打撲したススムは、その後調子が悪くなりしばらく仕事を休んでいた。戻ってきたススムは以前とどこか変わってきていた。求められて抱き合いながら、いたわるような言葉をかけられ、初めて聞いた感情的な言葉、触れ合う肌と心臓の音。
「これがそうだっていうのか?」と疑いながらも、モドルはススムから決定的な言葉を聞かされる。そして、ススムに連れられてある人物に会いに言ったモドルは、そこでススムの気持ちと彼が抱える事情を知ることになる。
前作でははっきりしなかった事実が明らかとなり、二人の関係がいよいよきちんと定まった終わり方でよかったです。
ススムの偏った思考をときほぐして、モドルが教えてやらなければならないこと。ススムの代わりはいないこと。たとえススムがどういう事情で生まれたのであろうと、モドルにとってはススムはただ一人の取り換えのきかない存在であること…。
せつない終わり方でじーんときたところに、「ススムの魂100まで」「Wipe it超番外」というギャグな描き下ろしがあり、ススムとモドルはこの調子でうまくやればいいよ、ととりあえず苦笑してみたところに、あとがきがもいい感じに面白かったところで、最後に「There's always light.」という描き下ろしでススムの過去がちらりと垣間見えて再びちょっとじーんとしたところ、最後はやっぱり、この二人はもうこのまま一生いちゃいちゃやってればいいよ!という終わり方でした。
このコミックスはところどころ笑わせどころはあるものの、全体的にはシリアスめでまとまっているので、SHOOWAさんはよっぽどギャグが描きたかったんだろうなあ(笑)